ジブンゴトライターのSaoriです。
「ひとりじゃないでね」という言葉をどこかで耳にしたり、目にしたことはあるでしょうか?これは、島田市の子育て支援ネットワークに加入する団体が掲げる「子育て応援メッセージ」なんです。方言を使った柔らかい言葉で、子育てに不安を感じたり、奮闘しているお母さんを優しく包み込むような言葉。子育てで四苦八苦していた(今でもいっぱいいっぱいですが)あの頃、この「ひとりじゃないでね」という言葉を目にしていたらどんな風に思っただろう。ふと、そんなことを思います。
さて今回は、そんな標語を掲げる子育て支援サークルを主宰する松浦優子さんを取材しました。
キラキラしている人もかつてはモヤモヤしていた
私が優子さんと出会ったのは、とある講座を受けた時でした。
確か女性が5〜6人程いて、テーブルを囲み、自己紹介やらなんやらを一人ずつ話しましょうみたいな時間があったんです。私は本当にこういうのが苦手なんですよ。頭の中が整理できず思考停止になって、何を喋ってるかわからなくなってしまう。
そんな中、優子さんはスラスラ〜と実にわかりやすい構成で見事にお話されていました。世の中は、「喋れる人間」と「喋れない人間」の2つでできているんだなと少しヘコんだのを覚えています。その後少しだけ2人でお話させてもらった時の印象。そして、「せっかくこうして出会ったので、みなさんのインスタよかったらフォローさせてください」といった声かけ、先導力。
…キラキラしている!後光がさして直視できない!どうしたらそんなに風に生きられるのかしら!
いつか深くお話を聞いてみたいと思っていたので、今回の取材を口実にお話を聞くことができました。
▼優子さん
“夫とはワーキングホリデー中のオーストラリアで出会って、そのまま結婚、妊娠。そして夫の実家である島田市に来たんです。私は東京出身で、島田?どこ?という状況で。当然、知り合いもいない、夫と夫の家族しか頼れる人はいない状況ですから、妊娠中からモヤモヤの連続でしたよ。”
そう語る優子さん。
キラキラと輝く笑顔からは想像もできないほど、第一子妊娠中から産後にかけては壮絶な気持ちの葛藤やモヤモヤがあったそうです。
怒りの感情をパワーにして
▼優子さん
“とにかく「なぜ自分ばかり苦しい?」「なぜ助けてくれない?」っていう負の感情でいっぱいだったんです。産後2ヶ月でやっと外に出られる!って思って支援センターにも行ってみたんだけど、他のママさんと話すことって案外ないんですよね。支援センターのスタッフさんとは話しましたけどね。”
私も娘が幼いころ、全く同じ状況でした。まだ言葉もわからない娘に、一生懸命笑顔で話しかけるのですが、まるで独り言を言っているようで、笑顔がだんだん引きつってくるんです。他のママさんに話しかけるわけでもなく、ただ義務のように支援センターに通う日々。娘はこんなに可愛いのに、どうして心から笑えないんだろうと自分を責めた時もありました。
▼優子さん
“子育て中、最初はね、しんどいとか辛いとかっていう感情もわかんなくて。あー子育てってこういうものなのかなって感じでね。でも、だんだんわかってくるんですよね。「母親なるものは、自分を殺して生きていくべし」って圧を感じるようになって、絶望の気持ちになったんです。
それがだんだん「なんでこんな思いしなきゃいけないの?」って怒りの気持ちがふつふつと湧いてきて(笑)”
そうか、怒りか。思い返せば、私も本当は誰かに、何かに怒りたかったのかもしれない。
▼優子さん
“それですぐ第二子を授かったんですが、第一子の時と違って東京の実家へ里帰り出産ができたんです。産後も実家でサポートを受けられたこと、そして、私の中で衝撃だったのが、出産した病院で産後のボディーマッサージとか、母体のケアを受けたんですね。以前は「赤ちゃんのため」という頭しかなかったのですが、ママも大事にしてもらえるんだって思って。
ここで私は怒りに震えたんですよ! 「正しいケアがあるのに!ママだってマッサージしてもらう権利があるのに!なんでこういうのがあるって誰も教えてくれなかったの?!」ってその時も怒りですよね(笑)その後図書館で偶然手にした本で、産後自分で出来る母体ケアの方法があるということを知ったんです。この時の感情が、のちに自分を動かすエネルギーになったんですね。”
子育て支援サークルが立ち上がるまで
優子さんは、その書籍の著者である吉岡マコ先生が主宰する「NPO法人マドレボニータ」の産後ケアを学ぶことを決意します。
「自分のように産後悩んでいる人のために産後の大事さを伝える人になりたい。」
そのためにまず保育士として社会復帰をし、また同時にボランティアでNECワーキングマザーサロン(※注)の進行役を努めます。
※注:NECワーキングマザーサロンとは
出産後の女性が職場復帰や再就職し、子育てしながら働くことへの不安や悩みに向き合い、自ら解決する力を発揮できることを目指す、少人数制のワークショップ
なるほど、初めて出会ったあの日の優子さんの立ち振る舞いは、まさにここでの経験が生きてたのか!
▼優子さん
“子育てしながら勉強して研修を受けてって怒涛の日々でしたけど、本当にワクワクしたんです。そして念願のNPO法人マドレボニータ認定産後セルフケアインストラクターになることができて。バランスボールを使ったエクササイズで産後のダメージを受けた体を回復させるための運動なんですが、やっぱり体を動かすと気持ちいいんですよね。汗をかくし、ぐっすり眠れるし。体が楽になると気持ちも前向きになる。それを実感して欲しくて。”
優子さんの教室は口コミでどんどん広まり、順風満帆に見えた活動。ところが、もっと頑張らないと!もっと伝えないと!という強い思いで奔走するあまり、体調を崩してしまいます。そして、優子さんは教室をしばらく休講することに。
▼優子さん
“でもそこで気付けたんですよね。自分が楽しめなくてどうするんだって。子育て中の人が自分らしくいられる場所。それを作るのが私の役目だと思って。当時、子育て支援サークルをすでに細々と活動していたのですが、バランスボールだけでなく、語り合うワークや趣味のダンスなどいろいろ楽しいことを詰め込んだ子育て支援サークル【母部】の活動をメインにしていったらどんどん仲間が増えていったんです。”
自分らしくいられる場所、楽しめる場所…。自分の産休中の1年を振り返ると、やっぱり無理をしていたかもしれないなぁと改めて思いました。
ママサークルにツラい思い出がある私
私は「ママサークル」や「ママ友」という言葉に若干アレルギー反応があります。私はグループが苦手で、またたくさんの人と仲良くなれないコンプレックスがあり、母親になるということで何かのグループに属さなければいけないのだろうかといつも悩んでいました。
こんな母親ではダメだ。娘には私のようになって欲しくない。
子どもの交友関係が広がればと(今思えば1歳未満の子どもに交友関係もなにもないのですが)無理して某市のママサークルに入ったことがあります。
うまく話せない自分。素直に声を掛けられない自分。すでにグループが出来上がっているところに飛び込んだ為、毎回転校生の気分でした。周りに人はいるのに、孤独感はより高まる。家に帰っては「こんなママでごめんね」と泣きながら娘を抱きしめていました。
▼優子さん
“合わないなって思ったら全然無理して来る必要はないんですよ。友達同士で来る人ももちろんいますけど、一人で来る人も多いですよ。続けて参加する人もいますし、途中で来なくなる人もいる。でもそれでいいんです。今は子連れで外出することに抵抗があったり、不安があってモヤモヤしているママの[はじめの一歩を踏み出す場所]にしてもらえたら嬉しいかなって思います。”
私はあの頃悩んでいた自分に、「無理しなくて大丈夫」と言ってあげたい。
▼優子さん
“4月なんかは仕事復帰で卒業するメンバーもいたりで、思い切って行ってみたいなって思う人は4月がおすすめかな。本当に、気軽に参加してくれたら嬉しいなって思ってます。”
優子さんは、包み込むような眼差しでそう答えました。
「ひとりじゃないでね」の意味
改めて思い出す「ひとりじゃないでね」という言葉。正直、最初はピンと来なかったんです。
孤独を感じたくなくて支援センター通いやママサークルに無理して入ったことで、余計に孤独を感じたという私の経験。「私たちはひとりじゃないよ」という集団からの疎外感を感じてしまったことから、素直に言葉が入って来なかったのかもしれません。
あの時の私にどんな言葉をかけたら楽になれたかを考えた時、「ひとりぼっちって思っているのはあなただけじゃないよ。孤独を感じているのは、あなた”ひとりじゃないでね”」という言葉かもしれません。
今こうして子育てサークルの活動や、産後ケア、また妊娠中からもできる産後ケアの知識を普及させようと奮闘している優子さん。こんなに精力的に活動している方ですら、かつては子育てに悩み、孤独を感じ、それを乗り越えて今があるんです。
ツラいことを頑張って乗り越えろ、ということではありません。自分にとって何がいいのか、いろいろな選択肢を考えてみることが大事なのかなと思います。その選択肢の一つが子育て支援サークルであり、もし合わなかったら違う選択肢を選べばいい。自分自身と向き合うことが子どもの笑顔や家族の笑顔に繋がり、自然体でいることが信頼できる人間関係を生むのかもしれません。
松浦優子さんが主宰する子育て支援サークル「踊る!弾む!母部」の情報はこちら↓になります。
https://plaza.rakuten.co.jp/iiska/
<文と写真> Saori ライターとかいろいろ