耕作放棄地のことを想ってみる〜うちの山、うちの畑の未来はどこだ〜

ジブンゴトライターのSaoriです。
ここは島田市(旧金谷町)の山間部。
かつてこの地は360度茶畑に囲まれていましたが、今はその茶畑が体感で半分以下になっています。
私はここで生まれ育ち、お茶の収穫時期には農作業を手伝っていました。

当時、祖父母が専業農家、両親は兼業農家でした。
今は祖父母が亡くなり、私と弟は家を出てそれぞれ家庭を持っています。
実家には父と母の二人。
今ではお茶農家を廃業して、お茶畑だった土地が今ではほぼ「耕作放棄地」となっています。

以前から気になっていたこの「耕作放棄地」。
改めて、父にこの「耕作放棄地」についてどう思っているのか聞いてみました。

どこまで広いのかわからない

▼Saori

今日は取材という形でお話聞かせてもらうので、よろしくお願いします。

▼父

よろしくお願いします。

▼Saori

えー早速だけど、うちの畑の土地は全部でどのくらいの広さがありますか?

▼父

畑はね〜だいたい1.7ヘクタールくらいか。

▼Saori

ヘクタール?えっと1ヘクタールどれくらいだ…。(google先生に頼る)
100m×100mの広さね…。
お茶をやってた頃はほぼ茶畑だったと思うんだけど、おじいちゃんが亡くなって茶畑の面積減らしたんだよね

▼父

そう、7反歩に減らして、最後の方は3反歩まで減らしただよね。

▼Saori

…反歩?1反ってどれくらいだ??

▼父

1反は10アールだね。

▼Saori

アール?????(混乱)
ダメだ、小学校の算数をやり直さねば…。

▼父

1反は300坪。

▼Saori

300坪…。(google先生に頼る)
25mプール3個分!広い!

▼父

それで、お茶やめてから、今3反歩は知り合いに貸してお茶をやってもらってるだよね。

▼Saori

そっか、人に貸してお茶畑を維持しているところもあるんだね。
お茶をやっていた時って最盛期ではどのくらいの収穫量があったの?

▼父

一番茶の時期で7000kg〜8000kgあったかな。

▼Saori

へぇ〜。(ピンとこないのでgoogle先生を頼る)
『静岡県の1ha(ヘクタール)当たり収量の平均は、一番茶4,633kg』って書いてあるから、平均かそれ以上の収穫量があったんだね。

お茶農家時代の茶畑
お茶農家時代の茶畑

かつて茶畑だった土地のいま

▼Saori

農家をやめたのはいつ?

▼父

あれは…2010年くらいだっけか?

▼母

(ここで母登場)
そうだったかね〜。

▼Saori

お茶やめてさ、お茶の木を結構 こいじゃった(*注)じゃんね。
それはどれくらいこいだ?

*注:「お茶をこぐ(扱ぐ)」とは「草木を根のついたまま引き抜くこと」

▼父

うちの下の所と、あの土地と…えー全部で4反歩くらいか。
うちの下の所は畑にして野菜を育ててるじゃんね。
あとはこいでそのまま。

結局、目の届くとこは家庭菜園なんかできるけど目の届かないとこなんかどうしようもないよね。
あっという間に竹が生い茂って、竹害がひどいよ。
時々切ったりしてるけど、手に負えない。

▼Saori

こいだ所と、あとお茶の木がそのまま伸び放題になってるとこもあるじゃんね。
ジャングルみたいになっちゃって。

▼父

そうだね。

▼Saori

あれはそのまま放置しておくと何か問題はあるのかね。

▼父

まずは害虫かな。茶の木につく害虫なんかは、よその畑なんかに迷惑になるし。
ほったらかしにしてるから農薬をかけているわけでもないしね。
あとは獣のいい隠れ家になっちゃってる。
いのししなんかの獣道になっちゃって。

▼Saori

そうか…これってうちだけの問題じゃないよね。
お茶畑が放置されているところは、ここ何年かで急激に増えているように見える。

▼父

お茶を辞める人が多いからね。

広がる竹害
広がる竹害

▼Saori

正直、これだけの畑を管理するにはお金と時間がかかると思うんだけど、そのお金と時間があればこうしたいとかっていうのはある?

▼父

そうだね、重機を借りて自分で山を整備したいね。

▼Saori

人に頼むっていうよりは自分で整備していきたい?

▼父

そうだね。重機なんか借りるのも結構お金かかるだよ。
そういうのをもっと安く借りれりゃあいいだけんね。

「耕作放棄地」一言で片付かない土地への想い

▼Saori

うちはいわゆる「耕作放棄地」をたくさん所有している家だと思うんだけど、耕作放棄地を実際所有している人が感じている現状や問題点を聞かせて欲しい。

▼父

自分の親の世代は、専業農業だもんで、お茶をやりながら山の管理や畑の管理が出来てただよね。
自分の世代は、元々他の仕事をやりながらお茶をやってた。
自分が仕事をしている間、じーさんばーさんちが草を刈ってくれたりしてくれてたもんで、裏の山も整備されていたし、人が入れる道もちゃんとしてた。

▼Saori

そうだよね。
小さい頃は裏の山でよく遊んだけど、今はとても人が入れる状態じゃないもんね。

▼父

管理する時間もお金もない。畑で作物を育てるにもお金がかかる。
山や畑の管理のために会社を休むわけには行かないしね。
放置している時間が長ければ長いほど、元の整備された山や畑に戻るにには時間がかかる。

▼Saori

うん。
山や畑を整備してお金になるわけでもないしね。
これだけの広さを管理するにも、圧倒的に時間と人手が足りないよね。

▼父

少しでも時間がある時にコツコツと整備はしているんだけどね、とても追いつかない。
自分もどんどん老いていくし体力もなくなってくる。
荒れ果てて手のつけようがないところがどんどん増えちゃって。

▼Saori

じゃあさ、耕作放棄地を利用させて欲しいっていう人が現れたらどうする?

▼父

土地は先祖代々から受け継がれたものだからね。
やっぱり見ず知らずの人にどんな使い方をするかもわからない状態で貸すのは…ちょっとね…。
畑はあくまでも畑であって欲しいし、できれば自分でまた人が入れるように整備して、継いでいって欲しいっていう気持ちはあるかな。整備するのを手伝ってくれるとかだったら助かるけどね。

▼Saori

そうなんだ。
耕作放棄地っていう頭で見ちゃってたけど、土地は先祖からいただいた資産だもんね。
それを守って行かなければって思いがあるんだね。
いずれはその土地も私や弟に受け継がれると思うんだけど、子や孫の世代に受け継がれた時、どんな山や畑であって欲しいと思う?

▼父

山や畑が整備されていた頃は、人間と自然と野生動物がうまく役割を果たして調和しながら生きていたと思うだよ。
本来の自然のサイクルを人間が崩したから、畑の鳥獣害が増えたりしていると思う。

▼Saori

あーなんか「平成狸合戦ぽんぽこ」思い出した。

▼父

人間の住む場所、動物が住む場所って昔はもっと住み分けされてた。
今は境界線が曖昧になって、野生動物が人間の住む場所に来るのがあたりまえになっちゃってる。

▼Saori

この前、猿の大群がこの辺押し寄せたって言ってたよね。

▼父

そうそう。
だから自分がまた山を整備して、人間が山に入って自然に暮らせるような土台を作るから、その山とか畑を維持してくれたら嬉しいなって思う。
山の山菜の恵みとか、美しい風景とか、人が豊かに暮らせる山や畑であって欲しいね。

▼Saori

ジブリの世界観だね。
自然との共存。

▼父

人間は住まわせてもらっているからね。
ここに帰って来た時に、自分の原点の場所、帰ってきたなって思える場所であって欲しい。

▼Saori

ありがとう。
なんだか考え方が変わった気がする。

人が入らなくなった裏山。まるでジブリの世界
人が入らなくなった裏山。まるでジブリの世界

私の問題・私たちの問題

ということで、私が耕作放棄地についてなぜ父に取材をしたかというと、いずれ相続するであろう「耕作放棄地」を厄介なものなのではないかと考えていたからです。
父のモヤモヤごとを取材するという建前で、自分のモヤモヤも解決したいという目論見がありました。

父の本音を聞いて、「耕作放棄地」という名ばかりの考え方をしていたことを猛省しました。
土地は先祖からの恵み、そして自然からの恵み。
父は使命として、自分の力で土地を守り受け継いでいこうという意志を感じました。

しかし、現実問題、このままでは耕作放棄地の荒廃は進んでいってしまいます。
親世代だけでなく、子世代がこの現実と向き合い、動いていかなければいけないと感じました。
引き続き耕作放棄地については取材し、実際自分が行動していこうと思います。