多肉ちゃんとわたし 〜憧れのおしゃれライフ〜

多肉ちゃんとわたし

ぷっくりしたフォルム。
種類ごとに形が違う多様な個性。
ずっと多肉植物は可愛いと思っていたのです。
お気に入りのカフェの窓辺に並んでいる多肉植物を見て、なんておしゃれなんだろうと憧れたりもしていました。

ただ、問題は面倒くさがり屋な自分が今までいろいろな植物たちを枯らしてきたことでした。
ハーブも野菜も花も、途中で水をやらなくなり、枯らしてしまいました。
ある日、マルシェイベントで多肉植物のお店を出していた店員さんに聞きました。
「多肉植物は水をやらずに放っておいても育つよ。」
しかも家の中で育てられる。
そう、そうなのです。きっと、今まで植物を枯らしてきたのは、外に出て毎日水をあげるという行為が面倒だったのがいけないのです。
きっと多肉植物なら枯らさないでしょう。
部屋のインテリアとしてもおしゃれだし、植物のある暮らしって癒されるにちがいありません。

私は店員さんに育てやすい多肉植物を教えてもらって、一つ買って帰ることにしたのです。

多肉植物に起きた異変

ところがしばらくしてから多肉植物に異変が起きました。
葉が変色してぽとぽと地面に落ち始めたのです。
慌てて理由を調べると、どうやら水をやりすぎたようです。
乾燥させてあげなくては、とベランダの外に出すも、日々すこしずつ葉が落ち、最後には跡形もなく枯れてしまいました。
まさか、育てやすいはずの多肉植物さえ枯らしてしまうなんて。
しかし、原因はわかっています。
今度は水をやりすぎないようにしよう、そう心に決めたのです。

多肉植物、再び

それから、あえて多肉植物を買うようなことはしませんでした。
でもある日、友人に誘われたクリスマスパーティーのプレゼント交換で、私のもとに新たな多肉植物がやってきたのです。
前回のものよりも立派な鉢に入った大きな多肉植物は堂々たる様子でした。
私が多少水やりを忘れてもびくともしません。
時折、生き物であることを忘れる頑丈さでした。
ある日私はいつも室内に置いてばかりではかわいそうだからとベランダに出してあげることにしました。
でも、これが良くなかったのです。

私は多肉植物を外に出したことなんてすっかり忘れてしまいました。
数日後、私はベランダで見るも無残に葉をしおれさせた多肉植物と再会することとなりました。

「出しっぱなしでいいのかな~とは思ったんだけどね」

母がノーテンキにもそんなことを言いました。
気が付いたなら中に入れてくれればよかったのに!
などと母に怒っても八つ当たりです。存在を忘れていた私が悪いのです。
良かれと思って余分なことをしてしまったのでした。

多肉ちゃんとひつじ

つぎに多肉植物と出会ったのは、掛川花鳥園でした。

入り口あたりのワゴンに、手の平サイズの小さな動物の形の鉢がたくさん並べられていました。
どうにも絶妙な愛嬌がある動物たちです。その中でも、ひつじの鉢が気に入ってしまいました。
このひつじの鉢の隣には、ちょうど良い大きさの小さな多肉植物がセットで販売されていました。
鉢だけ買っても仕方ありません。
しかし、と、私は今まで多肉植物を枯らしてきた歴史を思い出しました。
いや、こんどこそきっと大丈夫です。
そう思ってひつじの鉢と小さな多肉植物をセットで購入したのでした。

…案の定、小さな多肉植物は枯れて、今は手乗りサイズのひつじの鉢だけがちょこんと私の部屋に鎮座しています。

救世主現る

もうここまでくると笑い話にするしかありません。
というわけで、そんな話を友人れーちゃんにしたところ、彼女も多肉植物を育てていることを知りました。
多趣味な人で、時折、ディープな趣味について面白おかしく語ってくれます。
多肉植物も本格的に育成しているようでした。
なんと、職場の上司が買ってきて枯らしてしまいそうになっている多肉植物を引き取り、育成して、あまつさえ増やすことにも成功しているというのです。

れーちゃんによると、やはり多肉植物は水をやりすぎないことと、太陽の光があたる窓辺に置いておくことが重要だそうです。
私が熱心に聞いていたからでしょう。彼女は自分が育てていた多肉植物を私に分けてくれました。
足の小指の爪ほどの大きさの多肉植物の赤ちゃんです。

これは責任重大です。
気を引き締めてお世話をせねばなりません。
土が完全に乾くまで水をあげない。
日のあたる場所に置いてあげる。
ちゃんと言われたことを守りました。

なのに…。

小さな多肉植物の赤ちゃんはしおれて小さくなり、最後には枯れてしまったのでした。

枯らしてしまったと告白する私が落ち込んでいるように見えたのでしょう。
小さい多肉植物は環境の変化に敏感だから、もっと大きくなってからあげればよかったとなぜかれーちゃんが謝ってくれました。
いえ、これは私の世話の仕方がどこか悪かったはずなのです。
日当たりにも水にも気を付けていたことをれーちゃんに報告すると、もしかしたら風通しが悪かったのかも、とアドバイスをくれました。

多肉パラダイス

ある日、れーちゃんの家に届けものをしに行きました。

なんということでしょう。
れーちゃんの家の庭には多肉パラダイスが広がっていたのです。
色形様々な多肉植物が庭のあちこちで育成されていました。
木から鉢を吊るすネットも手作りで、なんとおしゃれなのでしょう。

それにしても、すべて枯らしてしまう私と、これだけの多肉パラダイスを作り上げることができるれーちゃんの差は何なのでしょうか。
徳でしょうか。私は善行が足りないのでしょうか。
そういえば以前、花を枯らした私に「お花は持ち主の元気が無いと持ち主に元気をくれて代わりに枯れるんだよ。ひつじちゃん、疲れてるのかもね。」と言ってくれた人がいました。
私、いつも疲れているんでしょうか。
いや、善行はしていなくても、悪行はしていないし、疲れてもいないはずなのですが。
そう、枯れるのは私自身に問題があるのではなく、世話の仕方が悪いのです。

あらたなる芽生え

次に多肉植物と遭遇したのは、とある雑貨屋さんでした。
ちょうどその日はイベントをしていて、多肉植物の販売をしている方が雑貨屋で出店していました。
私が多肉植物をよく枯らしてしまうという話をお店の人にするとなんと「私もです」と共感してくれました。

趣味で多肉植物を育成しているそうですが、育成しやすい種類としにくい種類があるそうです。
この種類は強いのでお勧めですと言われたものを購入することにしました。
枯らしてしまうことがあるというその方でも育てられているのなら、私も育てられるに違いありません。
今までの注意点を守って窓辺に置いて、水をあげすぎないようにしました。
しかし、ある日を境にぽろぽろとまた葉が落ち始めました。
なんということでしょう。強いはずの新しい多肉植物も枯れ始めたのです。
呪いでもかかっているのでしょうか。

しかし、今回はこれで終わりではありませんでした。
落ちてしまった葉を往生際悪く土の上に置いていたら、ある日根っこが生え始めたのです。
これは、初めての展開です。
わくわくしながら見守っていると、次に、小さな芽が根っこの近くに生まれました。
1ミリ程度の小さな芽です。
どうしよう!とインターネットで調べると、ここで焦って水をあげすぎてはいけないようです。
もう少し大きくなったら少しずつ霧吹きで水分を与えていくのです。

小さな命が必死で生きようとしている様子がなんともけなげで、飽きっぽい私でさえ毎日様子を確認しています。
今もあまり成長していませんが、枯れてもいません。

今度こそ、きっと私にも多肉ちゃんを育てる事ができるはずです。
たぶん。