シェアスペースのお留守番を引き受ける
島田駅前のシェアスペースエラティックウェアハウス(ERRATIC WAREHOUSE)の店主勇太さんが別事業も行うということでシェアスペースが使われない時間が増えると聞いたのは、コロナ感染が世界に広がる前、2020年の1月頃でした。
エラティックウェアハウスは島田駅前の好立地にある、おしゃれなスペースです。レンタルスペースをしていて、今までは個人が借りてパーティをしたり、1日だけのポップアップショップをしたり、勇太さんが自分でイベントをしたり、私もイベントを共催させてもらったりしていました。それ以外の時間は、コワーキングだったり、バーだったり、色々な使い方を模索してきた場所です。
そのまま使われないのはもったいないと思い、ボランティアとして勇太さんが不在だったり貸しスペースとして使われていない時にコワーキングスペースとして開ける店番をさせてもらうことにしました。いままで散々お世話になった勇太さんにに少しでも恩返しをしたかったのもありますが、自分自身のやりたいことにつながりそうな気がしたからです。
私の関心事
私は、自分が普段接することの無い人たちと出会う機会が沢山あることが大切だと考えています。 所属している『ソトコト』という雑誌のオンラインサロンの対談で、ある大学教授がそのことを「日常のエラーを起こす」と呼んでいて、なるほどマトを射た言葉だと思いました。
なぜ日常のエラーが大切だと感じるのか。それは自分の経験にルーツがあります。視野が開けて、自分が今までいたところがどんなに狭い場所だったのかを思い知る。そんな鮮烈な経験が私の中にはいくつも積み重なっています。おかげで、わたしは今自分が知っている世界や居る場所がどこまでいっても世界のほんの一部であることを知ることができました。
例えば、大学生になって入ったボランティアサークルでの出来事。
それまで頭にボランティアのボの字も無かった私は、単に仲間とひとつのものを作り上げる事が楽しそうだからと、そのサークルに参加しました。サークルでは、知的障がいのあるこども達と学生が触れ合うイベントの企画運営をしていました。
あるとき、そのイベントで先輩と知的障がいのある方が組んで司会をしました。楽しそうにしているものの、なかなかうまくプログラムの司会進行が進まず、先輩はその方をフォローするのに苦心しているように見えました。しかし、その後の打ち上げで先輩は「もっと自分があの人の良さを引き出せていれば…」と反省していたのです。
私はその言葉を驚きを持って聞いていました。視点が全く違うのです。私はその方をフォローすべき存在としてしか見ていなかったのに、先輩にとってはユーモアあふれる相方だったのです。私は自分の見ている部分以外にも世界は広がっていて、自分は物事のある一面しか見えていないのだと視野の狭さにはっと気づかされました。
特にコロナが広まってからは、自分が普段いる場所の中だけで生活する人が増えたのではないかと思います。私自身が実感していますが、自分と似ている人たちの中にいるのは心地よいことです(人間って、変化を嫌う生き物なんですって)。けれど他方で、それは危ういことだなとも思います。自分の世界をつくる壁の向こうにも暮らしていける場所があると知っていれば、何とか壁を越えようとするでしょう。壁の向こうには何もないと思っていたら、壁を超えるという発想自体が浮かんでこないのです。
たとえば、学校でのいじめ。それを受けている子の世界が教室だけしかなかったら、そこから逃げ出す術はありません。けれど、もしその子が学校以外で何か趣味の活動をしていたら学校はだめでもそこに逃げるという手段を考えることができるのではないでしょうか。それは、オトナになってからも、学校以外の場所でもきっと同じです。
そのような自分の関心から、私は日常のエラーを起こす場所としてコワーキングスペースの店番をしようと思ったのです。
コワーキングがうまくいかない
けれど、もともと島田ではコワーキングスペースの需要が低いのです。さらに、私自身は本来の仕事が別にあるので長い時間コワーキングを開けていることができません。使用する人からしてみれば、利便性が悪いのです。コワーキングスペースというと働く人ばかりが集まってきそうだったので「フリースペース」と称して誰でも来られるようにしてみてはどうかと考えましたが、こちらも自分が常駐できないというのがネックになりました。それに自由すぎると逆に来る理由が無くなるし、自分も来てほしいと誘いにくいと言うことに気が付きました。
次なる一手は
そこで、何か「人が来る理由」を作りたいということを考えました。真っ先に思い浮かんだのは飲食店です。「食べる」「飲む」という行為は誰でも日常的に行うこと。多くの人にとってそこへ行く理由になりえます。私は管理栄養士でもあるので、食とも縁があります。
ちょうどそのころナカムラクニオさんという方が営む「6次元」というカフェの本(※注)を読み、カフェは自分の思い描く日常のエラーを作り出すのにぴったりだと思いました。カフェ6次元は「一人はいいけど独りは嫌だ」という人たちが集まってくるような居心地の良い空間を作っているのだそうです。日頃の関係性から離れて、自分ひとりでも受け入れてもらえる場所があるというのは素敵です。
けれど、すてきなカフェは島田市内にすでにいくつもあります。すでにその役割を果たしている場所があるのに同じことをする必要性を感じません。多様な場があってこそ、より日常のエラーが生じやすくなるはずです。
6次元では常連の固定化を防ぐために、あえて様々に種類の異なるイベントを多数開催しているそうです。なるほど、ターゲットを絞らなければ人は集まりませんが絞りすぎても同質性が高まりすぎます。それでは日常のエラーは発生しずらいので、ターゲットの違うことをいくつか組み合わせればよいと思いました。
※注:『人が集まる「つなぎ場」の作り方人が集まる「つなぎ場」のつくり方 -都市型茶室「6次元」の発想とは | ナカムラクニオ |本 | 通販 | Amazon』
何かに似ているエラティック
そのころ、勇太さんの新規事業の関係でエラティックの中は荷物でごたごたとしてきました。そのごたごた感の中にいると、なぜか妙に落ち着きます。この感じは何だろう、何かに似ている。
「部室に似ている」と思いました。
部員の私物が隅に置かれているような、誰かの息遣いが感じられる場所。大学時代に入っていたボランティアサークルのサークル室は、活動で使う飾り物や個人の持ち物など物であふれかえっていました。そこへ行くといつもだいたい誰かしらがいて、何をするでもなくなんとなく時間を過ごしていました。時にはみんなでそこにスシヅメになって活動の話し合いをしたこともありました。学科も学年も違う、普段は会わない人たちと一緒に何か特別なことをしなくてもそこにいることができるあの感じ。
エラティックを部室に見立てたら面白いかもしれません。部活動をやっていた頃の私は自分という人間以外の何者でもありませんでした。学生という肩書はあったものの、自分の言葉で自分の思ったように話してふるまって仲間たちと過ごしていました。「社員」「地域の役員」「こどもの父親」「母親」…社会人になるとどうしても役割を背負って、自分で選択していない場に集まることが増えます。そんな日々の中で自分の好きなことで集まる場所ができたら、そこでは誰もが役割を背負わずに自分として選択して参加をすることができるはずです。
それで、エラティックを部室に見立てて「オトナの部活動」という活動を作ることにしました。
オトナの部活動はいろいろな「部長」が自主的に行う個性豊かないくつもの「部活」をコンテンツとして入れる箱のような存在です。それぞれの部活は対象をはっきりさせて人をあつめる力を高めつつ、全体では日常のエラーを起こすにうってつけの多様性が生まれるのではないかと考えました。
オトナの部活動を通じてわたしが 目指すもの
ここ数年色々なことに取り組んで気が付いたのですが、私は何か新しいことを生み出すのはわくわくするのですが長く続けていくことや深くかかわることが苦手なのです。何かのプロジェクトに関わっていると、しばらくすると別の事に関わりたくなってくる。そんな自分の責任感の低さにがっかりしたり反省したりした中で、それが自分の個性の一つなのかもしれないと思うようになりました。
私は「耕す人」なのかもしれません。荒れ地を耕して、花の種を植えることはできます。けれど、そこに水をやって育てて小さな成長を日々楽しむ「水やりの人」でいることはできないのです。逆のタイプの人も世の中にはいるそうです。そういった日常を楽しめるタイプの人がいなければ、どんなプロジェクトも芽が出ることはありません。
だから、オトナの部活動ではそんな水やりの人へ将来渡すことができるような手入れが簡単で面白いシステムを作りたいという野望を持っています。だいぶ大きな野望で、正直言ってできるめどは立っていませんけどね。野望は、抱く分にはタダなのです。
…という話をパワーポイントで作って仲間達に一生懸命プレゼンしたのですが、反応はいまいち。オトナの部活動のコンセプトまではいいのです。わくわくして聞いてくれます。 でも、そこから実際の活動方法やその裏の想いまで話すと「??」となるのです。
ある人は「もっと気軽にやってみたら」と言います。
ある人は「それでどんな課題を解決したいの?」と言います。
プロジェクトをチームで育てていくためにはチームメンバーが関わる「かかわりしろ」を持たせることが大切なのだと聞いたことがあります。確かに、このプロジェクトは私の想いで固まりすぎて他の人の考えが入るヨハクが少ないかもしれません。そう思うと、もっと自分の想いが出すぎないようにすべきなのかもしれません。それから、これは自分自身の「やりたい」という衝動から考えた活動なので課題ありきのものではありません。それこそ、ここで作る場が色々な場面で人々がよりよく生活していくための土台になるのではという想いはありますが、それ以上課題を深掘りすることは今はできそうにもありません。
このあたりで私は「あ、無理だ」と思いました。
諦めたのではありません。 「一回やってみないと無理だ」と思ったのです。
色々一緒に考えてくれる人たちはいるけれど、もはや机上の空論だけでは手詰まりです。ここでプロジェクトを止めないためには、やってみてフィードバックを得るしかありません。未完成の状態で「そいやーっ!!」とぶん投げることにしました。
ちょっと乱暴でしょうか?
でも、考えているだけではどんどんわからなくなって何もできなくなってしまいます。
行動に移してみた
ひとまず、島田市の市民活動センターに相談に行くことにしました。ここはクロスメディアしまださんという島田市で多様な活動を行っているNPO法人が運営をしています。クロスメディアしまださんは、「無人駅の芸術祭」という大井川流域で展開するアートのイベントを毎年仕掛けています。相談に行ったところ、今年から新たに始まる「アート・プラットおおいがわ」の企画の一つとしてオトナの部活動を実際に実施させてもらえることになりました。アート・プラットおおいがわは無人駅の芸術祭の連動企画で、そのまちに住む人たち自身が文化的な活動を企画していくというものです。
アイディアを見つけたら、やりたい!と周りの人に言いまくると何とかなるものですね。
さて、後はやりながら考えてみます。
今回のアート・プラットおおいがわの詳細はこちらのHPより。
アート・プラットおおいがわ HP
イベント | UNMANNED 無人駅の芸術祭/大井川
オトナの部活動の今後の活動は、note、facebook、インスタでお知らせしていきます。
しまだローカル女子プレス|note
しまだローカル女子プレスfacebook
@shimada.local.jyoshi
<絵と文> まりな 「それぞれの人が自分らしく一緒にいること」
をテーマに、島田を中心に
色々と活動しています。